Tuesday, September 6, 2011

思考停止の日本というシステム

 冷戦が終わり20年以上経ち、原発の大事故という代償を払うことで、やっと日本という政府、いや多くの企業までも含んだ日本という仕組みが、如何にいい加減なものなのかが白眉のもとにさらされた。責任を取ることがなく、まるで頭部のない怪物のような官僚組織、企業組織が牛耳る日本という国。競争の激しい業界以外にある日本の企業は、官僚制の民間版さながらだ。東電にせよ、大手メディアにせよ、規制に守られ安穏としてきた、日本的化け物組織の典型だ。

80年代にカレル・ヴォン・ウォルフレン氏が、『日本権力構造の謎』で既に指摘したように、日本の権力にはコアがないのである。頭も顔もない化け物だ。


原発事故以降のあまりにも国民をないがしろにした化け物ぶりを解き明かす、三冊の近刊書がある。

まず、一冊目は、フリーのジャーナリストである上杉・鳥賀陽らが書いた『報道災害』。事故当時、アメリカから日本の事故の情報収集を海外メディアを通して行った私は、あまりに日本の新聞が福島第一の3号機がプルサーマルであることに触れなかったり、重要な事実をわざと関連づけず、単発的に報道するのを見て驚いた。もしかして、日本の大手新聞社の記者が第3号機がMOX燃料を使っているプルサーマルだということを知らない訳は無いだろうと新聞を検索すると、朝日も読売でも、3号機がプルサーマルとして稼働した日に大きく祝うような記事を出していたことがわかった。上杉らは、こういった思考停止の大手メディアにいじめ抜かれながら、取材し、政府の会見に出て、少しずつだが、政府・東電に情報を出させていく突破口をつくった。この辺の事実関係、個人的な犠牲などについて、良くまとまった好著だ。一言で言えば、日本には記者クラブを中心とした不思議な言論統制の制度が存在するということを明確にしめす本だ。ここでも面白いのは、背後に一人黒幕がいるわけではなく、記者クラブの担当者・受け持ちの社が変わっても、淡々と組織的な慣行が遵守されていく不気味さだ。まさに日本という頭のない怪物だ。

そして、2冊目が、経済産業省の改革派の官僚の古賀茂明氏の『日本中枢の崩壊』だ。古賀氏は自民党時代に公務員制度改革を担当した渡辺大臣のもとで、改革案つくりに尽力した人物だ。マニフェストでも公務員制度改革を掲げた民主党政権に希望をかけるも、民主党は早々に改革を放棄してしまう。これに反対する議員により、国会に参考人として呼び出され、そこで改革を訴えたことで、当時の官房長官の仙谷氏に恫喝され,新聞記事にもなった。

古賀氏の本をみると、日本の政策過程が、これまた頭も顔もない官僚制という怪物に食い尽くされているのがよくわかる。 そして、天下りの利権の為に、この怪物が、さらに東電を頂点とする民間の怪物企業群とスクラムを組んでいることが、解り易く書かれている。


この怪物が、改革をしそうな政治家を如何に手際よく始末していくかもわかり、ぞっとする。

第三冊めは、元米国国務省日本部長のケビン・メア氏の『決断できない日本』だ。
私は在米なので、まだ本書が手元に届いていないので、まだ自分で目を通すことができていないが、講談社の『現代ビジネス』がメア氏のインタビューを掲載している。このメア氏は、沖縄はゆすりの名人と言ったという嫌疑で、その職を解かれた人物だ。だが、東北大震災後の米国の東北支援の際に、日本とのコーディネーターを命じられた国務省きっての日本通だ。(夫人は日本人女性。)

インタビューの内容だけでも、日本という誰も責任を取らないシステムの問題が浮き彫りになっている。しかも、メア氏が、その立場上知り得た情報に基づいて指摘している事実は重い。インタビュー本文は http://gendai.ismedia.jp/articles/-/18122?page=3

重要なポイントは、 福島原発が如何に大きな危機であるのに、日本政府にその認識が欠如していたか、そして、これが民主党政権、菅政権の問題ではなく、彼が仕事で日本と関わった過去19年間に見てきたパターンそのものだ、ということだ。

インタビューには驚きの発言も含まれている。

一つ、アメリカ政府は福島原発事故を重大視し、東京在住の米国人9万人全員の避難を考えていたこと。(メア氏が日本でパニックを巻き起こすことを心配して、本国政府に思いとどまらせた。)

二つ、アメリカ政府の援助の申し出に対しての、日本政府の信じられないズレぶり。メア氏によると:

具体的な事例をひとつ示しましょう。原発事故の後、アメリカは日本側に「こうしたことなら支援ができますよ」という品目を連ねたリストを送りました。とこ ろが、日本からは「ヘリコプターを何台支援してほしい」という回答ではなく、「そのヘリコプターはどんな仕様なのか。もしも放射能で汚染されてしまった場 合は、どんな補償が必要になるのか」といった100項目にわたる「質問」が返ってきたのです。
三つ、アメリカ本国政府は駐米日本大使を呼び出して、原発事故の深刻さを伝えるが、そこで日本政府がとった対応が、ヘリコプターで水を撒くこと。これにはアメリカ側もあまりの無意味な対応に非常にショックを受けたらしい。

四つ、1985年に日本航空のジャンボ機が墜落した際に、米軍がすぐに救助を申し出たのを日本政府は断ったそうだ。メア氏は、米軍が救出に出動していたら、もっと多くの人が助かっただろうと振り返る。(注 この事故では、無事に救出された当時10ー12歳くらいの女の子が、墜落後にも父親と妹が生きていたことを証言している。身動きできず一夜を事故現場で明かしたあと、父親の返答がなくなったと語った。この痛ましい事実はメア氏のいうように救助が早くに到着していたら、生存者の数が増えていたと考えることの妥当性を裏付ける。)

日本国民はどうしたらいいのか?革命的といえるほどのうねりが生まれない限り、この頭のない化け物にゆっくりとしかし確実に喰らわれて死にいたるだろう。静かに食われて死ぬのを待つか、化け物に立ち向かうか。そこまで状況は切羽詰まっている。