Monday, October 17, 2011

解任されたウッドフォード前社長が菊川会長に宛てた手紙の和訳

***新しいブログ記事:「日本の病理:日経新聞も日本生命もオリンパスと変わらない」も合わせてご覧ください。http://japanprof.blogspot.com/2011/10/blog-post_20.html


ニューヨークタイムズ紙が、先週金曜日に突然解任されたオリンパス前社長、ウッドフォード氏が菊川会長と取締役会宛に出した10月11日付けの書面をオンラインで公開しています。日本の新聞が全く報じないその内容を以下で和訳しました。非常にテクニカルな金融取引の内容は飛ばして、まとめ部分と、書面の最後の(菊川会長ともりひさし氏に辞任を迫る)結論部分は全訳してあります。英語の読める方はニューヨークタイムズ紙で実物をご覧ください。このリンクで書面そのものがダウンロードできます:

これが問題の書面の1ページ目。10月11日付けで、「手紙その6:企業買収に関連する重大なガバナンス問題」と題されており、菊川会長宛てに13ページの書面。会長宛であるが、最後のページに名前が載っている取締役会前メンバーにもコピーが同時に送られている。この文の書き出しからわかるように、ウッドフォード前社長は菊川氏と英語の愛称「トム」と呼んでいる。

1ページ目

 最後のページが以下。ここの名前のある取締役会メンバーにはこの「手紙6」という書面が同時に送られている。書面の中で明らかになるが菊川会長と一緒に買収に関わった「Mori Hisashi」氏の名前が筆頭にある。
 「手紙その6:企業買収に関連する重大なガバナンス問題」

トムへ、

上記の件で森さんと貴方に宛てた手紙、そして9月30日の取締役会で言ったように、オリンパスの企業買収にまつわる非常に重大なガバナンス問題を調査した結果を取締役会とE&Yのグローバル幹部経営陣に報告をしますと約束しました。やっと、Moriさんから貰った資料なども含め、事情を詳しく調べることができました。

9月30日の取締役会で説明したように、非常に気になる点が数点あったのですが、取り急ぎ、特にわが企業そして株主に大きな損失を与えた下記の2点に焦点をあてて調べました。
1)AXES/AXAMの二社の金融顧問会社に、GYRUS買収の際に支払われた6.8億ドル以上の額のカネの問題。
2)わが社が買収額を決定して投資を行って6ヶ月以内にALTIS, HUMALABO, NEWS CHEF 三社の価値が6億ドル近く減少したこと。

私がこれらの件の調査をするに際しては、問題の性質と複雑性のために、社長としての私に、独立の立場からアドバイスをしてくれるよう、プライスウォーターハウス(PwC) 社を雇い、特にGYRUS買収の際のAXESとAXAMとのお金の流れ、契約を精査してもらいました。PwCの30頁にわたるリポートは同封してあります。

10日前くらいまでは、東京でMoriさんとPaul Hillman と話しもしましたし、私は会社として解決に向けて進むために必要な共通認識を共有できることだろうと思っていました。ところが、PwC社のリポート内容は関係者の非をあまりにも明らかにするものであり、わが社の企業上層部の入れ替えなくては解決があり得ないことがはっきりしました。

とこのあと、2頁目では、AXESとAXAMとの2006年の詳しいお金の流れ・契約内容などについて。この頁の最後にまとめがあるので、それを訳します:
Review Findings (リポートで検証された点):
1)弁護士による法的なアドバイスはきちんとあったものの、AXESとAXAMに支払うことになった金額が相場的に正当なものであるかの確認に関しては専門家のアドバイスは受けないまま、契約内容を決定。
2)AXESという会社に関して、その経歴など調べはなされなかった。(ブログ筆者注:AXESとAXAMの取引にはキャッシュのみでなく、株式譲渡も含む)

3頁では、同じくAXESとAXAMとの2007年の支払い・契約内容について、最後のまとめが以下:
1)2回めの契約に関しては、弁護士も雇わなかった。
2)またしても金融サービスの対価が相場に照らし合わせて正当なものであるかの確認もなされないまま。
3)取締役会での承認のないまま、会長の菊川、そして取締役のMoriHisashi氏と取締役監査役YamadaHideo氏三者の稟議のみで契約に署名。契約後5ヶ月後に、事後的に取締会の承認を受けた。
4)契約ではさも企業買収額の最大5%がAXESとAXAMの報酬額のように書かれているが、契約書面での言い回しのために、実は5%をかなり上回る額になるようになっていた。
5)PwCによれば、類似のサービスへの報酬は通常買収額の1%。ごく稀な特別な場合でも2%という。つまり、買収額が20億ドルだったGYRUSの場合は、報酬は2000万ドルから4千万ドルになる。
6)ところが、2008年2月の買収時、報酬は1.87億ドル。つまり買収額の10%であった。

4頁でさらにまとめが:重なる部分があるので省略。

5-6頁では、オリンパスのグローバルな再編の結果、買収したGYRUSグループ を単独の上場企業としない方針が決定。このためにAXESとAXAMとの交わした契約上、報酬の一部がGYRUS株の譲渡で支払われていたために問題が生じた。これがどう処理されたかについての調査結果。長いので全文和訳しませんが、特に重要なのは、書面で1.5とされたセクションの(ii)と(vii):

(ii) 2008年7月31日には、このために雇ったKPMGとWeil, Gotshall & Mangers (WGM)が きちんと’した対策をオリンパスに提示。株の分は現金支払いで解決することが一番望ましい、との内容。
ところが、オリンパスはこの忠告を無視して、税金対策上どうしても現金払いでは嫌だというAXESとの交渉で優先株に交換。

優先株への交換に際しては、外部の専門家のアドバイスはなしに、先方との話し合いで合意。

(vii) 先の合意から2ヶ月しないうちに、2008年11月25日にAXAMは優先株を買い取ってくれとオリンパスに連絡。優先株の価格設定については、オリンパス側の提示価格はSHINKO証券が担当し、AXES/AXAMの主張する額と、SHINKO証券の試算額の中間で合意。取締役会も2008年11月28日に承認。

 6頁の最後:
オリンパスの担当者らは、報酬として譲渡されていたGYRUSの株オプションが上場廃止に基づき問題となった ことを解決する際に、プロの忠告を無視し、優先株と交換。しかも、ケイマン諸島に本社登記がされているAXAMに関してなんらの前調べもしなかった。

などなど非常に細かく、如何にきちんとした手順を踏まずにいい加減な合意が繰り返されたかを、外部の監査組織の調べにもとずいて淡々と記録。ALTIS, HUMALABO, News Chefの買収においての問題点については9-10頁に詳しい。ここでの問題は、買収し終わってまもなく、3社の価値が投資額の25%まで下がってしまった、ということ。

11-12頁には結論として:

GYRUSの買収は、PWCの調査結果から明らかにするように、最悪な過ちと尋常ではない判断の欠如の連続だった。ALTIS,HUMALABO,NEWSChefの買収と合わせると、驚くべきレベル(13億ドル)の株主利益の破壊といえる。先日、UBS銀行のロンドンの銀行の規定を破り、不良トレーダーが膨大な損失を出し、結果として経営幹部が辞任した例に匹敵する。GYRUSに関する問題、そして全く価値のない企業三社の買収に際して、最も私が問題視するのは、これがオリンパス社の経営最上層幹部により行われたという点である。

トム(菊川会長)、9月29日にの会合で、貴方はALTIS,HUMALABO, NEWS CHEFの買収についての自分の判断の甘さを認めましたが、オリンパスという一流上場企業が、7億ドルという金額を誰がオーナーなのかもはっきりせず、外部監査法人も利益享受などがあったかを確認できないようなケイマン諸島の会社に支払ったということが、私から見て尋常ではく、正直いって信じられないほどです。これが日本の、そして世界の株主にわかれば、わが社の信頼は大きく傷つかざるをえません。PwCリポートが指摘するように、ケイマン諸島のAXAMは、オリンパスが最後の支払いを済ませた3ヶ月後には、金融会社としての登録料未払いで、登録を取り消されているのです。

 あまり重要でないパラグラフは抜かして、最後のパラグラフが:

会社(の存続)第一に考えると、もっとも望ましいのは、貴方とMoriさんが、想像に難くない大変なことではありますが、責任を取ることです。 問題解決のためには、あなた方二人が取締役会に辞任届けを出す以外の方策はないのです。こうすれば、オリンパス社にダメージの少ない解決法を見出すことも可能でしょう。もしも辞任をしないということでしたら、社長として株主への責任を果たすために、企業内のガバナンスに対しての問題提起を関係当局に起こす義務が私にあります。

明日東京に戻りますが、東北に行く予定があるので、貴方とMoriさんと金曜日にお会いし、方策を話し合いたいと思っています。(ブログ筆者注:この金曜日にウッドフォード氏は解任)

マイケル・ウッドフォード