Wednesday, May 2, 2012

米中の蜜月と日本のお目出度さ:「盲目の人権活動家」陳光誠を巡る両国政府の対応


ここ数日のニュースで非常に重要なのは、盲目の人権活動家」陳光誠を巡る米中政府の駆け引きのニュースだ。これは米中両国の関係がどの程度深化しているのかを計る絶好の機会だ。

中国山東省で軟禁されていた陳光誠氏は28日迄に、軟禁先から脱出し、支持者らに助けられながら北京の米国大使館に保護を求めた。これを受けて、クリントン国務長官の訪米を目前に、大きな外交問題に発展することは避けられないと心配されていた。ところが、いともあっさりと解決。 保護から6日にして、陳氏が米国大使館を離れ、北京内の病院に入院することで外交問題としての事態は一応終結した。昔,類似のケースが大きな外交問題になり解決策が練られるのに一年ほどかかり、その間活動家が米国大使館内で暮らしたことを考えるとこのスピードは異例だ。

詳しくは後述するが、今回の問題解決を見ると、 米国政府がどれだけ中国政府に譲歩しているのかが良くわかる。執行部の交代時期の中国をなるべく刺激せず、良好な関係を保とうとするオバマ政権の姿勢が現れている。

野田首相の訪米中のオバマ政権の日本政府に対する無下な対応と比較すると非常に興味深い。今日は、米中の蜜月と日本の政府もさながら、日本のマスコミの劣化ぶりにも触れたい。

米中政府の関係はかつてないほど親密だ。これはオバマ政権云々ということではなく、「構造的な背景」がある。両国間は、経済的な繋がりにも増して、人的な繋がりが非常に増しているのである。共産党の執行部などエリート層の子女の非常に大きい割合(4割といわれている)はアメリカ在住だ。そして、その孫たちになるとさらに9割が在米であると云われている。パターンとしては、まず子女を留学させ、賄賂などで蓄財した富を海外に送金する、あるいは賄賂を海外在住の子弟に直接送金して貰う。リーダー層は多かれ少なかれ似たような手段を使っているようだ。理由は簡単。中国は表向きには共産主義を掲げており、私的財産への保障がしっかり確立していない。しかも、部分的に緩和されたとは云え,一人っ子政策もある。子女と資産を海外に出すことで、これらの中国内の問題から逃れる事ができる。 失脚した中国重慶市の薄煕来(ボーシーライ)前市党委書記もこのパターンだ。まずは、息子をイギリスの名門高校、オックスフォード大学、そしてアメリカのハーバードの修士課程に留学させ、膨大な額(800億円相当との報道もある)のドル送金をした。

つまり、裏返すと米国政府は中国の要人の子女と財産を人質に取っているいるようなものだ。次の国家主席といわれる習 近平(シー・ジンピン)の一人娘もハーバード大学に留学中だ。これでは米中関係が良好になるわけである。

私が直接に話を聞く機会のあった米国務省の高官も、東アジアは非常に安定している、中国政府は非常に大国としての責任感を持っていると手放しで中国を褒めていた。一方、日本のことになると「政治が悪い」と苦虫を噛み潰したような表情だった。しかも、普天間の話になると、「去年,日本が思いやり予算を更新したことは評価するが、別に日本の基地に固執する気はない」と、総じて日本への興味が薄れている印象を受けた。

覇権国としての総力が落ちている米国にとって、中国との協調と構造的な利益の共有はまさに願ったりかなったりの状況だろう。

こういった米中関係を背景に、では日本はどうするのか?

全くこの辺が見えてこないのが、日本政府とメディアのだらしなさと云える。 呆れたことに、ここで説明したような人権活動家の陳氏をめぐる駆け引きについても、日本の大新聞は非常に出遅れた。

ちょっと考えれば、このニュ−スが日本にとってどれだけ重要なものであるかは簡単にわかるものなのに、紙面はもっぱら、 野田総理の訪米のニュースとイケメンなんとかという俳優の三角関係のニュースで一杯だった。

特に、日米首脳声明で、日米関係の大切さが再認識されたと有頂天の野田総理と大新聞の提灯記事のお目出度さには驚く。

今回の訪米で、日本の首相は、 これまでになく冷たいあしらいを受けた。外交というのは非常に形式にこだわるものだ。通常、両国のカウンターパートは同じランクの者同士だ。ワシントンでの歓迎晩餐会には本来のカウンターパートであるオバマ大統領は出席せず、「格下の」国務長官のヒラリー・クリントン氏が代役でホスト役を務めた。ところが、このクリントン長官も中国訪問を控えて多忙である為に、晩餐会を早めに後ろにした。

これでは、いくら共同文章で米同盟を「アジア太平洋地域における平和、安全保障、安定の礎」と位置づけようが、日米両国が「アジアと世界の平和、繁栄、安全保障」に向けて「あらゆる能力を駆使」し、その「役割と責任を果たす」と宣言しようが、虚しく響くだけだ。
陳氏が米国大使館を離れ,病院に入院した経緯についても、朝日・読売といった大新聞の報道の劣化が目立った。まず、日本の新聞は、陳氏が米国大使館で保護されたことを受け,今迄の類似のケースと同じ様に病気治療という理由で米国に出国することになる、と横並びの予測報道。しかも独自の取材ではなく、情報源は海外の報道機関だったようだ。産経は香港紙をネタに、朝日はロイターの配信をネタに記事を翻訳・貼付け記事を発表。 読売はそっくりな記事をネタを明かさず掲載。

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毎日だけが日本時間の5月2日の次点で、在中国の特派員発で一番早く正しい報道をしていた。これもまた海外報道機関の配信内容も交えてだが、同じ配信をみていたであろう読売・朝日特派員よりいち早く日本語で報道した点は評価できる 。5月2日時点で、今回の米中両政府の交渉過程に踏み込んだのはオンラインで見る限り、毎日が早かった。此の記事を読んでいただければわかるが、人権、人権という米国だが、クリントン国務長官の訪中を前に、カート・キャンベル国務省次官補を中国に送り込み、問題解決を計かれせた。その結果が、昨日の展開へとつながった。米国は陳氏の身の安全と引き換えに、中国に譲歩し、渡米を求める陳氏を却下し、家族の身の危険という脅しを含む中国側の意向を陳氏に伝え、陳氏がしぶしぶ米国大使館を後にした、のが真相のようだ。オンラインの毎日の記事の内容は、ちょうど同じ時刻に米国内で配信されたニュースを同じ内容のものだ。毎日の記事はココをクリック。

日本という国は米国に依存している時代にもきちんと米国を研究せずに来た。恐ろしい事に、頼みの米国に疎んじられるようになってもまだ米国を研究しきれていないようだ。