Saturday, April 21, 2012

東電 MIT トリウム の不思議な繋がり


久しぶりのブログの再開だ。今日のテーマは、東電、MIT、国防、軽水炉ビジネスとトリウムの関係。知り合いの研究者とのひょんな会話が気になり、家に帰ってからMITの二人の教授について調べて見ると面白いことが色々見えてきた。。

話の発端:東電による米国有名大学MITでの寄附講座

昨日、MITTepco Professorというポストがあるのを聞きつけ、調べてみると二人いることが判明。MITマサチューセッツ州ケンブリッジ市にある私立大学マサチューセッツ工科大学の略。昔から米国の国務省など国防・軍事関係の研究資金が多く投資された大学である。 

このTepco Professor、日本で寄附講座と呼ばれるものと同じかは、私にはよく日本の大学事情がわからないので、遠回りになるが説明しておきたい。(説明が不要な方は読み飛ばしてください。)

アメリカの大学には、外部寄付により通常のポストよりも多額のリソースが付与された教授職がある。例えば、アップルのスティーブ・ジョッブスの寄付で出来たものならば、「東大スティーブンジョブス機械工学教授浦島太郎」あるいは「アップル機械工学教授浦島太郎」などという肩書きになる。こういったChairを作るのにどれくらい金額がかかるかは、分野によっても異なるだろうが、私がハーバードの大学院生だった1990年代初頭には、社会科学系で3億円ほどだった。この3億円を元本に毎年の収益から特定の教員の給与の全てあるいは一部、及び研究費を賄うことになる。研究費が膨大にかかる工学系だともっと多額の寄付が必要かもしれない。いずれにせよ、留意点は、収益を使うので寄付する元手がかなり多額になることだ。

東電はMITに二回大きい寄付をしてTepco  Professorができた。まずは1993年に環境研究の分野で、続いて2000年に原子炉の研究でもう一つ1993年にTepco Professorに就任したのは、温暖化研究の専門家のロナルド・プリン教授、2000年に新しくもう一つできたTepco Professorとなったのがエジプト出身の原子力エンジニアでムジド・カジミ教授。ご両人とも現在でもTepco Professor現職。(両教授の就任につての情報は、MITの以下のウェブサイトで確認 http://web.mit.edu/press/2000/tepco-0503.htmlまずは、原子力村らしい、非常に計算された分野の選択と人選に感心。

日米原子力村の環境研究支援:地球温暖化の救世主としての原発

プリン教授は地球温暖化問題では大御所。地球温暖化の解決策として「クリーンな原発」を売り込みたい国際原子力村が早くから環境研究に食い込もうとしていたことは当然だろう。東電が1993年に「温暖化研究枠」で寄付したことから、アメリカの原子力村はもっと早くから資金投入をしていたことは想像にかたくない。プリン教授は2007年に大気中のメタンガスが急上昇していると発表し、研究成果は国際的に報道された。最近では風力発電が大気の気温を上昇させるという研究成果も発表している。代替エネルギー支持があまり活発になってもらいたくない原子力村には有難い研究だ。

日米原子力村の軽水炉で燃やせるトリウムへの過剰な夢
 
もう一つの2000年に新しく創設された「東電教授」のカジミ教授の研究領域は、より安全な原子炉の設計と使用済み燃料に含有されるプルトニウムをの総量を如何に減らすか、というもの。しかも、いかに経済的な原子炉を造るかを題目に掲げている。これはまさに、日米の原子力村にとっては核心の研究分野だ。

原発はクリーンでエコどころか、燃費は悪く、しかも使用済み燃料という大量の放射性のゴミをつくりだす。このゴミはプルトニウムを多く含有し、核兵器の材料に利用することができる。今現在、日本の原発は止まっているが、もしも全基を再稼動させるとまもなく非常に危険な使用済み燃料の置き場所が無くなってしまう。もともと軍事的理由でプルトニウムを生み出すことで選ばれたウラン燃料を使った原発だが、今ではそれが世界の原子炉ビジネスの足かせとなってしまった。しかも、核エネルギーを推進した張本人の米国にとっても、プルトニウムの拡散は頭の痛い問題となってしまっている。福島原発事故で茶の間でもお馴染みになったIACEは、軍事転用されないように世界にあるプルトニウムを見張る機関である。何とか、プルトニウムをあまり生まない、そしてすでに存在するプルトニウムを減らすような原子炉は造れないか、というのが原子力村の願いだ。でないと商売続行が不可能になる。実際、先進国にはコスト高の原発をやめてしまう国も出てきた。

日本ではプルトニウムを燃料として再利用できる高速増殖炉を開発して核のリサイクルをするという国策ができたが、そうして出来た「もんじゅ」は事故を起こしてから動いていない。2004年ごろには経産省の若手が「19兆円の請求書」という内部告発書を作成し、この国策の無理・ムダを国民の目に晒そうとしたが、原子力村に封じ込められた。「19兆円の請求書」はここをクリックするとダウンロードできます。

こんなどん詰まり状況で期待されているのがトリウムという天然放射性物質だ。トリウムはウランと異なり、燃してもプルト二ウムをほとんど発生させないという触れ込みだ。政治的な理由でなかなかウランの輸入が許されなかったインドなどは早くからトリウムを使用する原子炉開発に着手していた。日米原子力村が開発し、建設してきた軽水炉ではなく、溶解塩炉などを使った研究が進んでいたが、カジミ教授が研究するのはまさに、日米が推進する軽水炉でトリウムを使う方式だ。

2009年の日経ビジネス、オバマ政権がトリウムを使った原発に梃入れしているという記事が掲載されている。http://eco.nikkeibp.co.jp/article/column/20090805/101975/?P=1 この記事では日本が取り残されていると書かれているが、東電は2000年からカジミ教授のトリウム研究に投資していたわけだ。

より安全で、安く、軍事転用ができないというのが触れ込みのトリウムは原発推進派の夢でもある。原子力ルネッサンスを担う立役者がトリウムだ。でも果たして本当だろうか? 私は専門家ではないので、原発推進国である英国の国立原子力研究所(National Nuclear Laboratory)で2010年8月に発表されたThorium Cycle Position Paperというリポートをダウンロードして読んでみた。驚くべきことに原発推進国の英国でさえ、リポートでトリウムによってプルトニウムの総量や放射性物質の危険度はそんなに変らないことを明記している。トリウムを燃すにはウランやプルトニウムを混ぜねばならず、原発推進派が願うような効果はあまり期待できないという内容だ。

日米原子力村と東電

米国のジェネラル・エレクトリック社と日立は提携、東芝は元米国のウェスティンハウスを買収し、原子炉ビジネスにコミットしている。興味深いのはこれらの原子炉メーカーの研究開発費までを肩代わりするような東電のMITへの寄付だ。如何に東電が日米の軍事・エネルギー政策・商売に関わっているかの象徴の一つだ。これゆえに経産省内の電力自由化の目は摘まれた。地域独占を維持することで国際的にも高い公共料金を維持し、それを電力とか全く違う目的に流用する不思議な体制が日本には存在する。米国であれば、軍事関連研究費として支出されるものが日本では国民の目に触れないように粉飾決算となっているわけだ。この辺に日本の権力構造の闇が隠されているのではないか? 米国の軍事産業と政治の繋がりについては民主主義に反するものだと考えるアメリカ国民も多くいるが、軍事問題が政治の最重要案件として受け入れられている米国と比べると日本の民主主義度はさらに低い。「平和憲法イコール民主的な政治」ではないことは日本の現状を象徴しているようだ。

こうして見て行くと、脱原発を言い出した菅首相が官邸を追われ、その後就任した野田首相をオバマ大統領が持ち上げ、その野田首相が再稼動を慌てるのも、なぜであるかわかる気がする。この辺はまたの機会に続けたい。


付記

カジミ教授は福島原発事故の教訓として、如何に原子炉が安全にちゃんと計画通りシャットダウンしたか、これを契機に原子炉がより安全になるだろうと、楽観的な点ばかりを強調している人物でもある。彼が昨年の7月26日に発表したスライドをみるには、ここをクリック。カジミ教授のMITのホームページはこちら


プリン教授のMITのホームページはこちら地球温暖化などについて研究・発表しているが、日本語で報道されている内容もある。  

「山積する温暖化防止の課題」フォーリン・アフェアーズ誌はこちら

大気中のメタン濃度、2007年に再び上昇:MIT報告」はこちら

風力発電のタービンが大気中の気温を高めるとの報告」はこちら